yamamba’s diary

日朝国交正常化なくして、拉致問題の解決はなし

小泉訪朝の迷走 2002年9月FSHISO

◆16725/17534 QGB02146 TATEO 小泉訪朝の迷走
( 9) 02/09/29 21:09 コメント数:3

一体全体、今回の日朝首脳会談において得点したのは誰なのか?
誰が勝者で、誰が敗者なのか?
小泉純一郎なのか、金正日なのか、外務官僚なのか、拉致被害者本人とその家族なのか、日本の国民なのか、北朝鮮の国民なのか、あるいは一部のウヨクなのか、アメリカなのか?
勿論、まだ事態は流動的であり、ようやくその小泉訪朝の全容が明らかになりつつあるばかりであり、その迷走ぶりの実体が見えてきたばかりだ。
しかし、はなはだ不透明で、魑魅魍魎の外交交渉の意味を理解するには、まずこの点から切り込むのが、一番の早道であり、ざっとここでそのおさらいをしておく事は、今後の事態の推移を用心深く見守る上で無駄ではないと思われる。

そして私の結論を先に言うと、奇妙な事に、実は誰一人得点を上げていない。
皆、(今の所)特別大損した訳ではないが、大騒ぎをした分、エネルギーを相当に浪費した事だけは確実だ。
これから先は皆、共食い、共倒れになる可能性だってある。
そうなったら悲惨も度を超したものとならざるを得ない。
以下、ざっと、この辺の事実関係をみていきたい。

小泉首相と官邸、外務省官僚が、国民人気を当てにして、小泉流政治パフォーマンスを演出し、点数稼ぎに走った可能性が高いが、その暴走した試みは残念ながら大きく躓いた(と思われる)。帰国直後、世論調査で80%近くあったとされるこのイベント支持率も、、その後、「拉致問題への北朝鮮側からの回答の中味は薄い」事が暴露され、それとの交換条件で国交正常化交渉再開を約して帰国した小泉のおめでたさ、に非難が集中し、一挙に支持率も低下しつつあるものと思われる。(この世論誘導のパターンは、何時でも類似の手法が使われている事に留意する必要がある。)

小泉と外務官僚は「こんなはずではなかった」と臍をかんでいるはずだが、しかし国家の組織犯罪というパンドラの箱を開けてしまった為に、もう事態は彼ら自身の収拾のつかない方向に走り出している。国民国家の責任ある政治家なら、世論に逆らってでも、道理を主張し、政策の基本理念を主張すべきなのだが、ただ人気取り(と外務省官僚は失地回復)しか頭にないから、北朝鮮側から「拉致問題解決」での大幅譲歩案が示されて目が眩み、さっそくそのエサに飛びついて了っただけの話だ。「アメリカ戦略」や戦後50年の重い歴史課題である国交正常化問題等との政策的整合性の十分な吟味もなく、大ばくちに臨んだツケはすぐに回ってくる事になる。政策の首尾一貫性が説明できないのだから、その早晩の破綻は目に見えている。

金正日も自らの国家の組織犯罪を自白するという外交では禁じ手のカードを使ってしまった為に、小泉と同様、事態の制御はいよいよ困難となるだろう。勿論、彼にとって自分の「犯罪歴」の数々が暴露されたからと言って痛くも痒くもないだろうが(そんなものは帝国主義者のデマ宣伝だ、)、ただ、会談の主催者として実質実りある成果(日朝国交正常化と賠償金、経済支援の獲得)が得られなかったとすると、やはり権謀術数では「千里先をも見抜き、百戦錬磨で無敵で卓越した」金正日首領の肩書きに傷が付くことは疑いなく、日朝基本合意が白紙還元という事態に至れば、彼にとっても大きな政治的痛手となるだろう。
情報の閉ざされた独裁国家の政治家なら陰謀も容易であろうが、相手が一応曲がりなりにも「開かれた民主主義社会」の政治家に属し、国家国民に自らの政策の説明責任があるという事情、小泉と外務官僚の一部を騙せても国民全体は騙せないという「民主主義社会システム」の事情を、金正日は過小評価したのではないだろうか?
そうだとすると金正日は重大な失敗をやらかした、という事になる。

では、拉致被害者本人、そして家族の人達にとって、今回の小泉訪朝の成果はどうだったのか?
一見すると一番得点したのは彼らの様に見える。何せこれまで拉致の事実、真相すら全く闇の中であったのだから、その事実が明白に表に出ただけでも大きな前進であったかも知れない。しかし既に述べた「国家の組織犯罪」というパンドラの箱を開けてしまった事が、その拉致被害者の救済にプラスとなるかマイナスとなるかは危険な賭となる。むしろ事態は一層難しくなりつつあるのではないか?
被害者の家族の人々が、北朝鮮工作機関のそうした残酷非道の犯罪に強い怒りを持つ気持は分かる。拉致問題の解決の為には一定の真相究明が必要な事も明白だ。
しかし、国家機関による組織的犯罪の徹底的な真相究明を求めれば求めるほど、北朝鮮側の犯罪の事実はより拡大し、混迷の度は更に深まるだろう。
事件の真相徹底糾明は、国家の組織犯罪を裁くという方向に向かうなら、それは国家の存亡と威信を掛けた、引くに引けないパワーゲームの様相を呈する事になるだろう。
もし、北朝鮮が同様に、日本が過去にやった朝鮮人拉致、強制連行の犯罪行為を暴き立て、その責任者の徹底処罰を要求し始めたらどうなるだろうか?
百数十万人に及ぶと言われるその事件の被害者の規模-あくまで日本国内への強制拉致事件に限って-と10数人の拉致事件とまともな比較になるか冷静に見つめる必要がある。ウヨクの狙いは、こうした日本側の過去の歴史責任に頬被りして、一方的に北朝鮮を悪玉に仕立て、国民の敵対意識を醸成させ、国交正常化交渉をぶち壊わす事にある。
つい先日までの「不審船事件」の空騒ぎがその実体を物語っている。彼らはそこで、もう明日にでも北朝鮮が戦争で攻めてくるかの様な馬鹿騒ぎをしていたはずだ。
拉致被害者の家族の人々が、こうしたウヨクと隊伍を同じにするのは、日朝両国民の不幸だ。そこには問題の現実的解決はなく、ただ日朝両国民の間の不信と憎悪との感情が増長されて、不幸な歴史が繰り返されるだけだ。
しかしこうした抜け道のない迷路は、「拉致問題の解決無くして、日朝国交正常化交渉はあり得ない」という拉致被害者家族と交わされた日本政府の基本原則の内に、既に命題として含まれている。
この基本原則自体に無理があったのである。

ウヨクはどうか、というとすっかり騙されて、怒り狂っている。
拉致問題」では一定の成果をあげたもののの、実質中身のない「不審船事件」認知、核査察受け入れ、ミサイル発射実験凍結等の回答との引き替えに、小泉首相が「植民地支配で朝鮮の人々に多大な損害と苦痛を与えた事を痛苦に反省し、おわびをする」との言質を与え(日朝共同宣言)、「国交正常化交渉の再開」をやすやす約束して帰って来て仕舞ったからだ。
ウヨクは、そこで小泉が金正日にはめられた事に気付いたのだ。しかしそれはウヨクの報いなのだ。自分達が仕掛けたワナに、自分達自身がはめられたのだ。自分達の要求が逆手に取られたに過ぎない。
日朝国交正常化交渉の場所に「拉致疑惑問題」をねじ込んで、「拉致疑惑問題」の解決が交渉再開の前提と言い続け、それを根拠に交渉再開を阻んできたのあるから、北朝鮮側があっさりとこの要求を飲み込んで了ったなら、国交正常化交渉開始を阻む口実が無くなって仕舞った訳だ。一度登ったはしごを突然に外され、後戻りができなくなってしまったのだ。
まさか安倍晋三は、ピョンヤンに出かける際に、「国交正常化交渉再開・経済援助」の<空手形>で、「拉致被害者の全員奪還」が果たせる、なんて虫の良すぎる算段をしたのではないだろうか?
そうだとすると、彼らは金正日との陰謀戦に一敗地に塗れた事となる。
まあ、彼らウヨクが騙されたとしても、日本国民は何一つ損はしないから、この事実関係は日朝両国民の得点とも言えなくはない。

では最後に、ブッシュアメリカの事情はどうだったのか?
アメリカの関心は今はもっぱら、当面の敵「イラク」に集中している。もち論、昨年発表したブッシュドクトリンで唱われている、北朝鮮金正日体制=「悪の枢軸」「テロ支援国家」との認定はその後放棄・修正されたという話は聞いていないから、その政権打倒を執拗に狙っていることは疑い得ない。
そうした事情を考えると、アメリカのこの小泉訪朝、日朝首脳会談への無関心ぶりは際立っている。
何か腹黒い意図でも隠しているのだろうか?
多分、何もない。アメリカ人は昔から腹芸の出来る国民性にはない。ノーテンキなカーボーイ気質そのままに、あくまで攻撃の対象を<当面>イラク1本に絞り、北朝鮮を「片づける」のはそれからでも「遅くない」と考えているだけの事だろう。金正日政権が暫くのあいだ「大人しく」していてくれるなら、それはアメリカの当面の軍事作戦上も都合がよい。
(あるいは、アメリカの最近の対北朝鮮問題に対する散漫な態度をみていると、実際金正日体制は弱体化しており、米国側からすると、当面恐れるに足りない相手との認識が芽生えているのかも知れない。)
だたそれだけの事、そうすると小泉訪朝とアメリカ戦略との整合性の問題は、ただ単にアメリカの当面の<時間稼ぎ>に手を貸した、という程度の話になる。まあ、どちらにしても、アメリカにとって今回の日朝首脳会談は本当はどうでもよい話だったに違いない。
アメリカが日本人の拉致問題に関心を払う理由などは、全然なかった。
自分の所のCIAやFBIが日常茶飯やっている事なので、日本がその程度の問題で何を大騒ぎしているのか理解できなかったであろう(^^;;
更に、表向きは、日朝首脳会談を評価して「東アジアの平和と安定に寄与するもので、重要で有意義な会談だった」という様な声明を出しているが、本音とは思えず、小泉首相へのリップサービスに過ぎないだろう。
北朝鮮との戦争をも射程にすえて一国単独主義で着々と世界戦略を推し進めている国が、今更「東アジアの平和と安定」を求めてどうするのか?
まあ、こうしたアメリカの無関心があったからこそ、日本の小泉首相と外務省はその間隙を縫って、珍しく対米盲従ではない「独自外交」を突っ走ったのだが、その結果は、金正日政権の合法的承認とその体制を支える経済援助、という<アメリカ戦略>からすると実に奇妙な成果を持ち帰って来ることになる。
だからアメリカもポイントはマイナス。

こうして日朝首脳会談の「成果」なるものは、四方八方が火の海で、何時沈没しても不思議でない難破船の如く、波間を漂っているに過ぎない。
今後暫くこの「成果」にしがみついて、手前勝手な解釈を差し挟み、自分の有利な得点にすべく、綱引きと駆け引きは続くだろう。しかし現実的な解決の落としどころを見失い、何時までも国家のメンツにしがみついたパワーゲームを続けるなら、それは善隣友好への話し合いの場所が、むしろ互いの敵対関係を醸成し、戦争への危険な挑発活動の場と変わるだろう。軍備拡張を策謀する日本のウヨクがそれを望み、ブッシュアメリカもそれを望んでいる事は疑いない。
私自身はあくまで9・17日朝基本合意の内容を支持し、それが一部の関係者だけの手で勝手にボロぞうきんの如く捨て去られる事のないよう、暫くは厳しく監視を続けたいと思う次第である。(この稿終了)